週末花探し

東京都を中心に花を見に出かけた記録。土曜日か日曜日の夜に週一更新。たまに読書感想文。

『短編少年』伊坂幸太郎/あさのあつこ/佐川光晴/朝井リョウ/柳広司/奥田英朗/山崎ナオコーラ/小川糸/石田衣良 感想

短編少年

著者:伊坂幸太郎あさのあつこ佐川光晴朝井リョウ柳広司奥田英朗山崎ナオコーラ/小川糸/石田衣良

本の内容

人気作家の贅沢な競演。少年をテーマに綴られた短編小説9編を収録したアンソロジー。大人になり遠く離れていても、生きている小学生時代の約束。ふと思いだされる、憧れだった少年との日々。部活で起こった事件の、意外な解決方法――能天気な一方で、とても繊細な少年のこころを、男性はぜひ懐かしんでください。背伸びするいじらしさと、育ちゆくたくましさを、女性はぜひ愛おしんでください。

前回読んだアンソロジーは執筆時期がかなり古い作品だったので、今度は最近書かれた作品群を読んでみたいと本作を手に取りました。本作に収録された作品の初出は2012年のものが大半みたいです。

 

収録作品及び作家は、

です。 

以下気になった作品の感想。ちょっとネタバレありです。

 

『逆ソクラテス伊坂幸太郎

小学6年生の子供たちが先生に小さな反抗をするのを、大人になった主人公が回想するエピソード。

少し大人になり始めたけどまだ子供の話でもあるし、子供って大人より物事をよく見てるというか、達観してたりすることもあるよねって感じもします。

 

子供たちが集まって計画を練っていたりするのを読んでると、自分も童心に帰ったような、一緒に作戦会議に参加してるような、あるいは小学校の図書室で本を読んでいるような気分になります。

でもやっぱりこの話は、大人が昔を振り返る大人向けの話だと思います。

私はあんまり子供時代に戻りたいとか思わない人間ですけど、ちょっと懐かしくなってしまいました。

 

ちなみに本作は表題作として短編集も出ています。

逆ソクラテス

逆ソクラテス

 

 『ひらかない蛍』朝井リョウ

朝井リョウさんの作品を読むのはこれが2作目。前回読んだ作品もとても面白い短編小説だったので、1番楽しみにしてた作品です。

他の収録作品は比較的軽めの題材のものも多いのですが本作は少し重めで、不慮の事故で両親を亡くし児童養護施設で暮らすことになった小学校3年生の少年、太輔のお話です。

主人公の太輔を始め、同じ1班の子供たちが一人一人ちゃんと個性を持った人間としてよく描かれていて、

同じ学年でありながら施設での生活は2年目になる淳也の太輔への気の使い方や、良く言えば無邪気な性格の純也の妹の麻利、ちょっと意地悪ながらいつも母親の話をする美保子、そして中学3年生で年長の佐緒里のお姉さん感。特に佐緒里の描かれ方は本当に良い。

短編なので子供たちの家庭事情はそこまで細かくは書かれないけれど、陰影のついた人物描写はさすがで、描かれない部分も想像させます。

 

家族、約束、思い出などをテーマによくまとまっていて、今度は朝井さんの長編小説も読みたくなりました……ってとこまで感想を書いて気付きましたが、

本作は朝井さんの長編小説『世界地図の下書き』の一部分みたいですね。そうか続きも描かれてるのか。読むかも。

世界地図の下書き (集英社文庫)

世界地図の下書き (集英社文庫)

 

 『夏のアルバム』奥田英朗

現代を舞台にした作品が多い中で本作は昭和が舞台、親戚の伯母さんが入院し亡くなった夏の一時期のお話です。奇をてらったり意表を突いたりはせず、まっすぐ描かれた作品。小説を読んでるというよりは、エッセイを読んだような気分になりました。

『ひらかない蛍』は両親というもっとも身近な存在との死別ですが、本作は親戚の伯母さんという他人ではないけど、そこまで近い存在でもない。

読んでいて共感というか、個人的には実体験との符号を一番感じやすい作品でした。

 

『僕の太陽 』小川糸

生まれた日に父も亡くなった母子家庭の少年が、母と一緒に両親の思い出の地であるベルリンを旅行する話。

母親もあまり母親らしくなく、息子もちょっと息子らしくなく、親子なんだけどもどこか恋人のようにも見える親子の話です。

どちらが良い悪いという話ではなく、『夏のアルバム』がエッセイっぽく感じたのと比べると、こっちは「フィクション・小説」って感じが強くしますね。

 

『跳ぶ少年』石田衣良

最後に収録されてる作品。アンソロジーの中では他の作品と少しテイストの違いを感じます。

他の作品は子供同士の話が多く、そうでなくても出てくる大人は親や先生くらいで、学校や家族という小さな世界のお話ですが、

本作は子供同士でも学校や家族でもなく、主人公としては最年長である高校3年生の少年と、偶然出会ったプロカメラマンの女性の話。そして何よりエロティック。

 

石田衣良さんというと娼年』の映画を観たぐらいでしか知らず、そういう意味でちょっとエロい期待をしてたんですが、しっかり応えてくれました(笑)。

 

 

アンソロジー全体を見てみると、スポーツ系の部活動を題材にしてたり、それが作中で一定の役割を担ってる作品が多く、私自身は部活動やスポーツについて思い入れのない人生を送ってきたので、作品によって物語への入り込みやすさに差を感じました。

ただどれも読みやすい作品たちなので、気楽に手に取って良い本ですね。

 

朝井リョウさんも参加しているアンソロジーの感想はこちら。

nakanohitsuji.hatenablog.com

山崎ナオコーラさんの作品の感想はこちら。

nakanohitsuji.hatenablog.com