週末花探し

東京都を中心に花を見に出かけた記録。土曜日か日曜日の夜に週一更新。たまに読書感想文。

『いつか陽のあたる場所で』乃南アサ 感想

いつか陽のあたる場所で

著者:乃南アサ

いつか陽のあたる場所で (新潮文庫)

いつか陽のあたる場所で (新潮文庫)

 

あらすじ

小森谷芭子29歳、江口綾香41歳。ふたりにはそれぞれ暗い過去があった。絶対に人に知られてはならない過去。ふたりは下町の谷中で新しい人生を歩み始めた。息詰まる緊張の日々の中、仕事を覚え、人情に触れ、少しずつ喜びや笑いが出はじめた頃──。綾香が魚屋さんに恋してしまった! 心理描写・人物造形の達人が女の友情に斬り込んだ大注目の新シリーズ。ズッコケ新米巡査のアイツも登場。

 

2007年に単行本が出版されてからそれほど経ってない頃に1度読んだのですが、その時は集中力が続かなくて半分くらいしか読めなかったんですよね。

2013年にはNHK上戸彩さんと飯島直子さん主演でドラマ化もされ、ドラマで見たし読み直さなくてもいいかなとも思ったんですが、

ちょっと調べてみたらドラマは原作と話が結構違うらしいという情報もあって、じゃあ読んで確かめなきゃダメかなあと今になって読み直してみました。

 

以下感想、ネタバレありです。

 

主人公である芭子と綾香は罪を犯し、刑務所の中で出会い友人となり、出所してから下町でお互い支え合いながら、

日々の暮らしの中で小さな幸せを感じつつも、取り返せない過去や、ままならない現実や先々への不安も抱えながら生活し、生き抜いていくお話です。

 

芭子は割と真面目な子なんですが、いいことがあってもすぐ後ろ向きな気持ちになってしまう。誰かに優しくされても、きっと私の過去を知ったら相手だって……とマイナス思考。

綾香は対照的にいつも明るくて元気で、そんな綾香に芭子は助けられることも多い。でもその笑顔の奥にも色んな感情が隠されてて。

 

読んでてすごく面白いんですよね。なんで以前の私は途中で読むのをやめてしまったんだろうと思うぐらい。

多分当時の私は10代後半、20歳にはまだいかない頃だったと思うのですが、読み直してる時が30歳で、芭子と年齢がすごく近くなったせいか、焦りや不安といった悩みが共感しやすいのかも。

あとはドラマの影響で上戸さんや飯島さんの顔が浮かぶので、登場人物がより想像しやすくなったのもあるかな。

 

それに舞台となるのが谷中や根津や千駄木の下町(ちょっとだけ上野動物園とかも)の風景や人付き合いの描写も良い。

道路沿いに小さい鉢植えが並んでたりする町並みとかいいよねえ。ご近所の噂話とかが飛び交うコミュニティのあり方なんかは、過去を隠してる芭子にはなかなか息苦しいものもありますが。

 

この辺の地域のことは、今も私は詳しくはないのですが、初読の時と比べて根津神社上野恩賜公園には行ったし、谷中銀座商店街は行ってみたくて少し調べたことがあったりして、以前よりは親近感が湧くんですよね。

そのうち舞台となった地域に散歩とかに行きたい。

 

 

また芭子が服役していた時期が90年代後半から00年代前半くらいで、この頃っていうのがパソコンやケータイ、インターネットがすごい勢いで発達普及してた時期。

その時期を塀の中で過ごしてしまった芭子は、まったくパソコンがまったく使えないんです。

 

それで苦労する話もあるんですが、そことは少し別に読んでいてちょっと衝撃を受けたのが、

芭子が犯した罪というのは、ホストに入れ揚げたあげく貢ぐための昏睡強盗(あまり同情できない)。その相手を探すのに使っていたのが伝言ダイヤルなんですよ(あとテレクラとかも)

そこまで古くない、ほんのちょっと前の小説という感覚で読み始めたので、伝言ダイヤルという単語が出た途端、すごい昔の話でも読んでるかのような感覚になりました。正直私自身、伝言ダイヤルのことをよく知らない。

 

ネットの普及ってのがホント最近なんだなというか、いかにこの時期に短期間で急速にネットが広まったのか。

そら芭子ちゃんも時代についていけないよ。

 

 

あと高木聖大っていう若い警察官が出てきて、これが芭子に分かりやすく好意を抱いてるんですが、逆に芭子はすごい嫌ってるんですよ(笑)。

明るくて悪い人じゃないんだけど、過去に警察のお世話になった芭子からしたら、警察官というだけであまり関わりたくない相手。

万が一でも前歴を調べられたらという拭えない不安、噂話の好きな人も多い町、警察官を前に緊張している自分を誰かに見られたらと考えるだけでも不安になる。

なのに高木は何かと芭子に対して親切にしてこようとしてきて、それが何をしても芭子には逆効果(苦笑)。そもそも第一印象からして笑ってるだけなのに気持ち悪いと思われてるという(不憫)。

 

そんなちょっと可哀そうで憎めない高木は、乃南さんの別作品の主人公らしいので、そちらも機会があれば読みたいところです。

 

 

本筋の感想に戻ると、家族に見捨てられたと思っていた芭子だけど、先に家族を捨てていたのは自分の方だったと気づく件は、とくに切なく考えさせられました。

もともと家族関係が上手くいってなかったのも罪を犯す要因の1つだったのかもしれないけど、罪を犯したことでその家族関係自体を壊してしまった。

相当危なっかしい遊びをしている人でも、犯罪には踏みとどまったり、要領よく立ち回って犯罪から上手く逃れる人と、それが出来ず刑務所まで行ってしまう愚か者の差とはなんなのだろうかと。

 

本作はシリーズ化されてるそうで、本著も含め3作刊行されていて、マエ持ち女二人組シリーズとか呼ばれてるみたい。

なので続刊の方も是非読んでみようと思います。

 

自分の未来に思いを馳せる方法が分からなくなってることに気づいた芭子が、どんな風に生きていくのか、見届けないと。

 

続刊の感想はこちら。

nakanohitsuji.hatenablog.com

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