週末花探し

東京都を中心に花を見に出かけた記録。土曜日か日曜日の夜に週一更新。たまに読書感想文。

『五つ数えれば三日月が』李琴峰 感想

五つ数えれば三日月が

著者:李琴峰

五つ数えれば三日月が

五つ数えれば三日月が

  • 作者:琴峰, 李
  • 発売日: 2019/07/31
  • メディア: 単行本
 

作品紹介

日本で働く台湾人の私。
台湾人と結婚し、台湾に移り住んだ友人の実桜。
平成最後の夏、二人は5年ぶりに東京で再会する。

話す言葉、住む国――選び取ってきたその先に、
今だから伝えたい思いがある。

第161回芥川賞候補作。

台湾人の作家、李琴峰さんが日本語で書いた作品。

表題作『五つ数えれば三日月が』と『セイナイト』の2作が収録されています。

単行本とはいえ152ページなので、それほど読むのに時間はかかりませんでした。

 

以下感想。ややネタバレです。

 

収録されてる2作とも、日本在住の台湾人が主人公で、台湾人の目線で見る日本が描かれてます。

食文化や宗教観の違い、日本語や漢字に対する意識など、とても新鮮です。

 

五つ数えれば三日月が』では冒頭の回想において、日本留学を10日前に控えた主人公、林妤梅のもとに東日本大震災のニュースが入ってくるくだりは、外国人から見た震災という、今まであまり考えたことのない視点でした。

これから日本に行こうとしてる主人公からしたら他人事ではなく、メディアが大惨事を伝える国にまさに行くんだけど、それでも今いる台湾の日常は何も変わることはなくて、近くもないけど遠くもない、一言で言い表しづらいふわっとした距離感を描いてます。

 

それから日本の大学院を卒業し、日本で就職してから5年を経て、大学院の2年を共にした日本人の友人、美桜と5年振りに再会した主人公は、

池袋の中国風ハラール料理店で食事をするんだけど、その中国(風ハラール)料理の食べ方を、日本人の美桜が台湾人の主人公に教えるシーンはなんとも不可思議な感覚。

漢字だらけの色んな名前の料理が、どれも美味しそうなのよね。どんな料理かそこまでハッキリ想像しきれないんだけど、そこは漢字からのイメージや作中の描写で興味をそそられます。

 

二人とも30歳となり学生という身分から離れ、子供ではなくなり大人となった。

住む場所も仕事の種類も、結婚も自分の意思で自由に選べるし選んできた。

 

主人公は美桜に学生時代から片思いを抱いてきたけど、それを今まで伝えないできたのも自分の選択だし、

美桜も台湾人の男性と結婚し、台湾で夫の家族と暮らすことになったのも自分の選択。

 

自分で選んできた、だけれどそれでも迷ったり悩んでしまう。

 

ちょうど本作の前に読んだのが『ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン』という高校生が主人公の話で、すごく若さを感じさせる作品だったのですが、

本作は逆に、大人達の話、悩みだなと感じさせられます。ただ大人と言っても老け込むほどの大人ではなくて、まだまだ若い大人の話。

 

もう1作の『セイナイト』は20代前半の、台湾人女性と日本人女性のカップルのお話。

こちらはより言葉の違いや、言葉そのものについて重点的に描かれてます。