『はんぶんこの、おぼろくん』犬飼鯛音 感想
はんぶんこの、おぼろくん
著者:犬飼鯛音
内容紹介
嬉しい。かなしい。甘い。切ない。初恋の全てが詰まった感涙の青春小説!
以前感想を書いた『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』と同じく、はてな社が開発、KADOKAWAが運営してる小説投稿サイト『カクヨム』で連載されていた小説です。
『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』の著者がTwitterか何かで本作のことを取り上げていて興味があったんですよ。
それで図書館に行ったら人権週間とかで本が並べられていて、その中に本作も並んでいて、じゃあ借りましょうという感じで手に取りました。
並んでる本の4分の1くらいはLGBT関連だった気がします。*1
以下感想。軽めネタバレです。
あらすじを聞いてネットで試し読みしたときは、
トランスジェンダーのおぼろくんが少しずつ性別移行していく様を、小春ちゃん目線で描いていく話かと思ったんですが、そうではない。
段階的には性別移行に至るよりも前の段階の出来事で、何よりあくまで小春ちゃんが主人公の物語。
高校一年生の女の子、小春ちゃんの日常の1コマというか青春の1ページ。トランスジェンダーのおぼろくんの物語ではなく、小春ちゃんの初恋の物語です。
重要人物のおぼろくんの印象は、ちょっとミステリアスで、読者目線だと自己中心的にも見える。
何か行動を起こすときに、小春ちゃんに対して確認や説明をしないことが多いんですよ。
突然家にやってきたり、自分ではなく小春ちゃんに化粧したりとか。
まだおぼろくん自身が、高校一年生で子供っていうのもあるし、悩みごとや苦しいことがたくさんあるし、特に突然の出来事などに対しては、いっぱいいっぱいで気が回らないんだろうなあと。
そして自分の考えてること、感じてることをあまり話さないし、話してもそれが本心なのか分からない。
思っていることを言いたくなかったり言いづらいんだろうなあと。
人から否定されたり拒絶されるのは怖いし、おぼろくんは優しいので人を困らせたり悲しませたくないのだろうと。そのせいですごいミステリアス。
結果として一体おぼろくんにとって、小春ちゃんはどういう存在なのかが伝わってこない!
小春ちゃん目線で読んでると、ちょっと不誠実すぎないかいおぼろくんと言いたくもなる(笑)。
小春ちゃんは早い段階でおぼろくんに対して「好きなの」って伝えちゃってるし(ちゃんと伝わってない感あるけど)、小春ちゃんの好意に甘えてるように見える。
逆に言うと、小春ちゃんにしか甘えられないんだよね、おぼろくんは。
ちゃんと気持ちが伝え合えてない関係は、いずれ齟齬が出てくるというもので、最後にどうなるかは読んだ方はご存知の通りです。
あと気になるのがこの小説、登場人物がスマホをいじったりメールやLINEでやりとりする描写がないんですよね。どういう意図なんだろう。
そして最後になるけど、この手の題材で志村貴子に表紙を描かせるのはずるい。