週末花探し

東京都を中心に花を見に出かけた記録。土曜日か日曜日の夜に週一更新。たまに読書感想文。

『わたしの本当の子どもたち』ジョー・ウォルトン 感想

わたしの本当の子どもたち

著者:ジョー・ウォルトン

訳者:茂木健

わたしの本当の子どもたち (創元SF文庫)
 

内容紹介

もしあのとき、別の選択をしていたら? パトリシアの人生は、若き日の決断を境にふたつに分岐した。並行して語られるふたつの世界で、彼女はまったく異なる道を歩んでゆく。それぞれの世界で出逢う、まったく別の喜び、悲しみ、そして子どもたち。どちらの世界が”真実”なのだろうか? 『図書室の魔法』《ファージング》の著者が贈る、感動の幻想小説世界幻想文学大賞候補、ティプトリー賞・全米図書館協会RUSA賞受賞作。

 私がジョー・ウォルトン氏の作品を初めて読んだのが10年以上前、世界幻想文学大賞を受賞した『アゴールニンズ』*1という作品なんですが、

死んだ父親の遺産相続で揉めて骨肉の争いを繰り広げるという、貴族社会に生きるドラゴンたちのお話ですごく面白かったんですよね。

 それ以来ウォルトン氏の他の作品も読んでみたいとは思っていたのですが、やっと読みました。

 

 以下感想、少しネタバレありです。

 

 物語は2015年、介護施設で暮らす89歳の認知症の女性パトリシアの視点から始まります。

 パトリシアには2つの記憶があり、

1つはマークという男性と結婚したトリシアとしての人生、

もう1つはマークと結婚せず後に出会ったビイという女性と共に生きたパットとしての人生。

 もしあのとき別の選択をしていたら……というIFの物語はよくありますが、本作の面白いのは晩年になって別れた人生がまた統合されちゃってるんですよね。

トリシアとしての人生とパットとしての人生、果たしてどちらが本当なのか、なぜ人生が分岐したのか、そして1度分岐した人生がまたなぜ晩年になって統合されたのか。

ファンタジックな設定であると同時に、少しミステリーチックでもありますね。

 

 最初に考えた分岐の理由は、パットの人生はトリシアによる現実逃避の空想の可能性。

トリシアと夫マークの関係は結婚当初から問題だらけであり、結婚を機に仕事を辞め、4人の子供の育児や家事に苦労し、夫とも冷え切った関係。幸せな生活とはとても言えません。

対してパットは、パートナーのビイとの関係は良好で仕事も好調。信頼できる男性の協力もあって、3人の子供にも恵まれます。もちろんこちらも育児や家事に苦労しますが、トリシアに比べたら十分すぎるくらい順風満帆といえます。

 なのでトリシアがつらい現実から逃れる空想がパットの人生なのではないかと、それが晩年になりだんだん空想と現実の区別が出来なくなってきたのかと。

 ただそれだとおかしいのが、パットの世界ではキューバ危機においてマイアミとキエフ核攻撃がおこなわれるんですよね。トリシアの空想ならそんな物騒なことを起こす理由がない。

それに双方の人生に登場する数少ない人物として母親がいるのですが、母親との関係もトリシアのほうがどちらかといえば良いです。

 

 読み始めた当初はそんな分岐と統合した理由を考えながら読んでいましたが、半分くらい読む頃にはそこら辺はあまり気にならなくなってきました。

だってトリシアの人生もパットの人生も、どちらも物語として面白いんですもの。

本作はSFやファンタジー小説であると同時に、同時代を生きた2人の女性の半生を綴る物語でもありました。

 

 特にパットは女性のパートナーを見つけたので、本作はレズビアン小説でもあります。女性を愛し、共に暮らし、子を育て、共に老いていく。

これまでも同性愛やLGBTを題材にした小説は多数読んできたけど、基本的にはそういった題材を扱ってる作品だと知ったうえで読んでいたので、本作は不意打ちでした。

 またどちらの人生もいい塩梅にフェミっぽさが出てるんですよね。

主婦として家に縛られたトリシアも、同性カップルとして婚姻制度を利用出来なかったパットも、それぞれがフェミニズムに繋がっていくのは自然な流れだなーと思います。

 

 難点を挙げるとすると、登場人物が多くて覚えるのが大変なこと。

トリシアとパットには合わせて子供が7人いるのはまだ大丈夫だけど、子供たちがそれぞれ結婚したりしなかったり、パートナーを作ったり作らなかったりして、

さらにそこから子供をもうけたりもうけなかったりするわけで、子供たちのパートナーや孫の名前まで覚えるのは結構大変でした(苦笑)。

 

 本作はSF小説としても面白いけど、私は女性の半生を描いた作品という側面のほうが強く印象に残りました。

 パトリシアにとってマークのプロポーズを受け入れるか否かが分岐点となったけど、私の人生で分岐点があるとしたら、それはどこで何であるんだろうかなと読み終わった後にちょっと考えてみたり。

 

アゴールニンズ

アゴールニンズ

 

*1:文庫化の際に『ドラゴンがいっぱい!―アゴールニン家の遺産相続奮闘記』に改題。タイトルも表紙も変わり過ぎる!