『ミンのあたらしい名前 』ジーン・リトル 感想
ミンのあたらしい名前
著者:ジーン・リトル
訳者:田中奈津子
内容紹介
愛はきっと、ここにある
「カナダ児童文学賞」受賞作家ジーン・リトルの感動作!幼いころに里親に虐待されて心を閉ざしてしまっていた少女が出会う、優しい人々や素晴らしい出来事。そして、ハート先生がミンにした提案は……。
さわられると、犬はクンクン鳴いて怖がった。先生はいった。「安楽死させたほうがいいんじゃないかな」「いや!」ミンがさけんだ。「助かるんだったら、がまんできるはずです。あたしもなぐられたり捨てられたりしたけど、安楽死させられなくてよかったもの」
図書館でふと目に留まって借りました。
以下感想。ネタバレありです。
主人公のミンは幼い頃に捨てられ、それから里親が4度も変わり、すっかり心を閉ざしてしまい、自分の素直な意思や感情を伝えなくなってしまった女の子なんですが、
小児科医のジェシカ・ハート先生(ジェス)に誘拐され、少しずつ心を開いていく心温まる物語です。
「誘拐」っていうのはジェスのユーモアのある言い回しで、新しい里親になったということです。
ジェスに誘拐される前、序盤のシーンなんですが、
ミンは暇つぶしに、ウィリスさんの部屋のドアにかかっているクリスマスリースや、壁に貼りつけてある紙で作った雪をながめた。その気になれば自分のほうがもっとうまく作れると思った。でも、こういうものをいっしょに作ろうといってくれた人は、いままでだれもいなかった。ばかばかしい飾りを見て、ああ、クリスマスが近いんだと気づくのがせいぜいだった。
「ばかばかしい」と表現してしまうくらい、ミンは素直じゃないというか、屈折してしまってる子なんですよね。
別にクリスマスの飾りをすごい作りたいってわけではないんだろうけど、他の子なら普通に経験した、普通に持ってるものを持ってないことへの複雑な気持ちが現れてます。
でもそんなミンも、ジェスとの暮らしの中で少しずつ素直になっていって、例えば自分が実はお喋りな一面があることを発見したり、人のためにプレゼントを買うことの楽しさを知ったり、当たり前なことを経験し成長していくんです。
私自身、別にミンと似た境遇でもないし、特に自分と似てるとは思わないけれど、それでもミンに共感してしまったり、感情移入しながら読みました。
誰しもとまで言えるかは分からないけど、ミンに対して何かしら共感出来る人は多いんじゃないかな。
またミンが拾って面倒を見ることになる怪我をした犬エミリーですが、
どうやら人間にひどい扱いをされていたようで、ミンたちに心を開いてくれないんですよね。
そんなエミリーは、これまで里親やクラスメイトにも心を閉ざしてきたミンそのもの。エミリーの存在もミンに影響を与えていきます。
児童書ですが大人でもとても楽しめる本です。
物語はクリスマスの前くらいからバレンタインぐらいまでの冬の出来事なんですが、
ちょうど私も1〜2月にかけて読んだので物語に入りやすく、寒い冬に心も暖まったので、冬の読書にいいと思います(夏でも全然問題ないけどね)。
あと素直になれない大人の人なんかには特におすすめですよ。