『猫丸先輩の推測』倉知淳 感想
猫丸先輩の推測
著者:倉知淳
内容紹介
神出鬼没の童顔探偵現わる!
日常に潜む本格推理の精粋がここに!
『病気、至急連絡されたし』 手を替え品を替え、毎夜届けられる不審な電報、花見の場所取りを命じられた孤独な新入社員を襲う数々の理不尽な試練、商店街起死回生の大イベントに忍びよる妨害工作の影……。 年齢不詳、神出鬼没、つかみどころのないほのぼの系、猫丸先輩の鋭い推理が、すべてを明らかにする……?
本著は『猫丸先輩シリーズ』の4作目。2002年に新書版、2005年に文庫版、そして2018年にタイトルと出版社も少し変わって新装版が出ています。
今から手に取るには新装版が一番入手しやすいと思いますが、私は図書館で借りたので一番古い新書版を読んでいます。
猫丸先輩シリーズ、私が読書を始めた十数年前に読んでいて、確か1作品くらい読んでいない作品があった気がして本作を手に取りました。
当時既刊だった5作目までの中で、1作目と2作目はハッキリと呼んだ記憶があり、3作目と5作目はあらすじを見ると何となく覚えを感じましたが、本作はあらすじを見てもピンとこなかったんですよね。
以下感想。謎解き部分については触れていません。どっちかっていうと本作というより「猫丸先輩シリーズ」についての言及がほとんどです。
収録されている6編を簡単に紹介すると、
『夜届く』猫丸先輩の学生時代の後輩、八木沢のもとに数日ごとに夜届く、差出人不明の不吉な文面の電報。
『桜の森の七分咲きの下』花見の場所取りを任された新入社員のもとに現れる変な人達。
『失踪当時の肉球は』迷い猫探しを依頼された探偵。
『たわしと真夏とスパイ』商店街のイベントにて起こる妨害工作の数々。
『カラスの動物園』動物園で発生したひったくり事件。
『クリスマスの猫丸』クリスマスイブに疾走するサンタクロース達。
という小さな事件や、事件という程でもない日常の中での不可思議な出来事に対して、どこからともなく現れた、面白そうなことには何でも首を突っ込みたがる好奇心旺盛な猫丸先輩が推測をしていく、気負わず気楽に読めるお話です。
猫丸先輩シリーズ、初期のものには殺人事件を扱ったものなどもありますが、このような日常ミステリが多いです。
それも猫丸先輩は誰かを助けたいなどと思って動いているわけではなく、面白そうなことに興味があるだけで、自身が推測をして納得してしまえば、真実がどうであるかの確認は必ずしも必要とはしません。
勝手に事件に首を突っ込んで、自分が納得したらそれで終わり、何とも身勝手なキャラクターです。
本シリーズの魅力はそんな猫丸先輩というキャラクターでしょう。
童顔で長い前髪にまん丸の目、小柄な体にブカブカの上着を着て。定職にはつかず何か理由を付けては後輩の八木沢にたかりに来る。
様々なバイトをやっていて色んな場所に現れて、首を突っ込んでくる。憎めなくも小憎たらしいキャラクターです。
特に私が手に取った本作と5作目の『猫丸先輩の空論』(旧版)においては、唐沢なをきさんによって描かれた表紙と挿絵がとても可愛いです。
このくるくるっとした丸い目にいたずらっ子のような顔が実に可愛い。この絵に惹かれて十数年前の私は本作を手に取ったんですよ。
旧版の方は電子でも出てるみたいなので、この絵に惹かれたかたはそちらを手に取っても良いと思います。
それで読んでいて3話目にあたる『失踪当時の肉球は』を読んでて思ったんでが、これ読んだことある。当時既刊だった5作品全部読んでたのね。
1~2話目に相当する話を読んでもまったく覚えてなかった。10年以上経つと読んだ本の内容を人って本当に忘れるのね。
一度読んだ本を忘れてまた読んじゃうマヌケな人がいるのは知ってたけど、私もそうでした。『失踪当時の肉球は』以外の話は本当に覚えてなくて、再読でありながら新鮮な気持ちで読めましたよ。
気楽に楽しくサクサクと読ませていただいたけど、難点をあげると20年くらい前の作品なので、ややホモフォビックな表現が気になります。
後輩八木沢が銭湯で偶然出会ったおじさんと仲良くなった場面では、
銭湯の湯船の中で男二人が力強く見つめ合ってうなずき合う、という若干気色悪いシーンを演じた後、
活舌の悪い老人の話を聞くために成人男性二人が老人に顔を寄せる場面でも、
男三人が路上で頬を寄せ合っているのは相当気色悪い光景
ホモフォビアとは少し外れるけど、ひったくりを疑われてる男性が潔白を証明するために服を脱ごうとする場面でも、女性の独白として
おいおい、このおっさん本気だよ、勘弁してよ、おっさんが脱いでも誰も喜ばないぞ
などが気になりました。2002年の出版だもんねえ。おそらく雑誌などで発表した短編をまとめたものだと思うので、個々の作品が発表された時期はそれより前だろうし。
ちなみに2020年12月に約15年ぶりに新作となる、シリーズ6作目『月下美人を待つ庭で(猫丸先輩の妄言)』が出たそうです。推測、空論ときて、今度は妄言。というか15年も新作でてなかったのか。
猫丸先輩がイケメン過ぎて笑う。めっちゃ笑う。
でももし実写でもしたらこんな若手イケメン俳優が演じそう。今風のウケの良さそうな絵柄でこれはこれで良いと思います。
というわけで猫丸先輩シリーズ、最新の6作目以外は私は読んでいました。多分最新作も含めて、基本1話完結でどの作品から読んでも大丈夫なシリーズです。
2作目の『過ぎ行く風はみどり色』だけは長編でそれ以外は短編集となっています。
2作目は長編な上に殺人事件なので少し他と毛色が違うかもしれませんが、すごく面白かった記憶が残っています。事件の内容は全然覚えてないんだけど、重要なトリックだけは今でもよく覚えてるんですよね。
これもいつかは再読したい。そして新作も気が向いたら読みたい。