『不如帰』 徳冨蘆花 感想
不如帰
著者:徳冨蘆花
本の内容
「ああ辛い! 辛い! もう――もう婦人(おんな)なんぞに,生まれはしませんよ.」日清戦争の時代,愛し合いながらも家族制度のしがらみに引き裂かれてゆく浪子と武男.明治31-32年発表,空前の反響をよんだ徳冨蘆花(1868-1927)の出世作は,数多くの演劇・映画の原作ともなり,今日なお読みつがれる.改版(解説=高橋修)
なぜこの本を読んだかといえば、去年12月に蘆花が暮らした家や庭が残る、蘆花恒春園に行ったからですよ。
nakanohitsuji.hatenablog.com私、徳冨蘆花のことは大河ドラマの『八重の桜』にちょっと出てたなあ程度の知識で行ったんですが、とっても素敵な公園で、この場所で暮らしたという蘆花に興味を持ちまして、
きっと蘆花のことをもっと知れば、この公園のこともより深く理解出来そうだし、小説家のことを知るなら、その著作を読むのがもっとも正攻法だろうと、代表作と言われる本著を手に取ったわけです。
それでは感想。ネタバレありです。
昼ドラですよね、これ。あるいは橋田寿賀子脚本ドラマ。泉ピン子さんが出てきそう。
意地悪な人はトコトン意地悪で、そしてたくさん出てくる。個人的には浪子の妹の駒子とかが好きですね。
若い2人の男女の愛。それを引き裂かんとする結核という病、お家という考え方。ああ涙涙の悲恋劇。
すごく一般大衆向けの娯楽小説という印象です。
この本の初版が1900年(明治33年)なので、読む前は日本語も今とは違って読みにくいんじゃないかと思っていたんですが、言葉のテンポというかリズムが良くて、ちょっと音読したくなるような感じで、そこまで読みづらいということはなかったです。
また、私が手に取ったのは岩波文庫から2012年に出版された改版なんですけど、これでもかってくらい、漢字にルビが振ってあるので、すごく助かりました。
まあ漢字なら、逐一調べなくてもある程度は意味も推測出来ますし、どうしてもって時はスマホで検索してみたり。
ただスマホで検索しても意味が分からない単語や、漢字が難しすぎて、変換に時間がかかるものも多少はありましたけれど。
今では使われない日本語の中には、例えば「高利貸」のルビに「アイスクリーム」と振ってあるのもありました。
巻末の注によれば、「高利貸(こうりがし)」と「氷菓子(こおりがし)」をかけた、まあ言葉遊びですね。
洒落た表現するなあと。私もコレ使ってみたいんですけど、いつ使えばいいのかやら。
それ以外にも、今では使われなくなった素敵な日本語表現がたくさん出てきます。
いやー、古い本は難しそうって、食わず嫌いするもんじゃないですね。
あとは作中では戦争の話もたびたび出てくるんですけど、21世紀を生きる私と、100年以上前の人たちとでは、そこから受ける印象は全く違うんだろうなあと。
例えば病気療養中の浪子のセリフに、
「こんなに寝ていると、ね、色々な事を考えるの。ほほほほ、笑っちゃ嫌よ。これから何年かたッてね、どこか外国と戦争が起るでしょう、日本が勝つでしょう、そうするとね、お千鶴さん宅の兄さんが外務大臣で、先方へ乗込んで媾和の談判をなさるでしょう、それから武男が艦隊の司令長官で、何十艘という軍艦を向うの港に並べてね……」
といったものがあり、日本が1945年に第二次世界大戦で敗戦したことを知っていると、何だか浪子の過酷な運命を暗示するセリフみたいな気もしてしまうのですが、
この本は1900年に初版が出版されたわけですから、そんなわけがないんですよね。
他は現代だったら当人達の意思に背いて、勝手に離縁させるとかあり得ない。
結婚するにしろ離婚するにしろ、本人たち、両性の合意が重要。そんな今では当たり前価値観・権利も、つい最近獲得したものなんでしょうね。
うっかりしてたら、失くしてしまいかねないくらい新しいもの。
あと余談が2つ、現在放送中の大河ドラマ『いだてん』では、本著『不如帰』やその登場人物のモデルとなった方が出てきました。ちょっとビックリ。
この本が出版された当時の日本がどんな様子だったのか、なかなか想像するのが難しかったので助かります。
また本著は何度も映像化されているようなんですが、Wikipediaに記載されてる一番新しいものでも、1963年と結構前なので、
映像作品として本作を楽しむのはちょっと大変かと思っていたんですよね。
そしたらこのドラマの中で無声映画として、数秒程度でしたが映像として見れたり。ありがたい限りです。
そして蘆花恒春園では、園内にある蘆花記念館で企画展『浪子のトリセツ』―明治の結婚と家庭―を開催中とのこと。
期間は1月4日~4月30日なので、行けたら行きたいなあ。