『紙の動物園』ケン・リュウ 感想
紙の動物園
著者:ケン・リュウ
訳者:古沢嘉通
あらすじ
〈ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞受賞〉ぼくの母さんは中国人だった。母さんがクリスマス・ギフトの包装紙をつかって作ってくれる折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動いていた……。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作ほか、地球へと小惑星が迫り来る日々を宇宙船の日本人乗組員が穏やかに回顧するヒューゴー賞受賞作「もののあはれ」、中国の片隅の村で出会った妖狐の娘と妖怪退治師の「ぼく」との触れあいを描く「良い狩りを」など、怜悧な知性と優しい眼差しが交差する全15篇を収録した、テッド・チャンに続く現代アメリカSFの新鋭がおくる短篇集
面白い本はないかと探す方法は色々ありますが、
本作を手に取った理由は、世界幻想文学大賞を受賞していたからです。
同賞を受賞した作品を過去2作読んだことがあるのですが、どちらも面白かったので、きっと本作も面白いだろうと。
以下感想。ちょっとだけネタバレあります。
作者が中国生まれであることもあり、中国の文化や歴史が下敷きやテーマになってる作品が多く、同じ東アジア人としては独特の親しみやすさを感じました。
漢字が作中でも重要な要素になっていたりとかね。英語圏の人はどんな風に読んでいるのか、逆に想像してしまう。
他には不老不死だったり、作者はプログラマーでもあるそうなので、そこからくる理系要素など、サクマ式ドロップスのように様々な味わいを揃えている短編集です。
結末もスゥーっと綺麗にフェードアウトしていくものもあれば、どうしてって思わずにはいられないものまで。
個々の短編で見ると、表題作『紙の動物園』は、アメリカ人の父、中国人の母、そして主人公の息子の話なんですが、
お母さんが折った紙の動物たちが動く様がとても可愛らしい。
折り紙という題材が日本人にはとっても身近だし、
個人的には幼い頃に遊んだぬいぐるみたちを思い出させて、とても懐かしい気持ちになりました。
あと本文を1ヶ所だけ、中国人の母親の喋るシーンを引用させてもらうと、
「もしわたしが“ラヴ”言うと、ここに感じます」母さんは自分の唇を指した。「もし“愛 ”言うと、ここに感じます」自分の心臓の上に手を置いた。
のくだり何かは、同じ漢字を使う人間としては、すごく共感しやすい。
あと読んでいて思い出したのが、ジュンパ・ラヒリの『その名にちなんで』という小説。
両作とも、アメリカという地で外国人の親と、アメリカで生まれ育っている主人公という所が共通してるんですよね。親の心子知らずなところも。そしてどちらもとっても素敵な作品でした。
次に収録されている『もののあはれ』は日本人を主役に据えていて、
主語を大きく言ってしまうと、日本人が思う、まさに理想的な日本人で、
日本人的には、共感する人の多そうな話だなと。
それを中国生まれの作者が、英語で、アメリカの雑誌で発表してるのがまた面白い。
他にもまだ13編ありますが、私が好きだなと思ったのは、『結縄』『心智五行』『文字占い師』『良い狩りを』でしょうか。どんな話か興味があれば読んで確認してください。
なお本作は文庫本化もされてますが、そちらは7編と8編の2冊に分けて収録されてるようです。