週末花探し

東京都を中心に花を見に出かけた記録。土曜日か日曜日の夜に週一更新。たまに読書感想文。

『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』浅原ナオト 感想

彼女が好きなものはホモであって僕ではない

著者:浅原ナオト

彼女が好きなものはホモであって僕ではない

彼女が好きなものはホモであって僕ではない

 

内容紹介

繋がれない僕らは、それでも、あたりまえの幸せを手に入れたい。


同性愛者であることを隠して日々を過ごす男子高校生・安藤純は、同級生の女子・三浦紗枝がいわゆる腐女子であることを知り、彼女と急接近する。
異性を愛し、子を成し、家庭を築きたい。
世間が「ふつう」と呼ぶ幸せを手に入れたい。
少年の切実な願いと少女の純粋な想いが交わるとき、そこに生まれるものは――

 

世間の「ふつう」と、自分の本当にほしいものの差に悩んだことがある全ての人に送る、切なくも暖かい青春小説。

  刺激的なタイトルなので、以前はてなブックマークで話題になっていて、少し気になってはいたんですよね。

 ホモって言葉には侮蔑的なニュアンスを感じとる人も結構いて、近年では特に公共の空間ではあまり聞かなくなりましたし、

でもその侮蔑的なニュアンスをおそらく分かってて、敢えてホモって言葉を選んだのかなと。ではなぜホモという言葉を選んだのかなと。

 話題になってた記事は、その時にはちゃんと読まなかったので、よく分からないままでしたが。

 

 そして先日、今年の4月にNHKでドラマ化が決まったと聞きまして、あのNHKが?

NHKというと去年は『女子的生活』や『弟の夫』などLGBTをテーマにしたドラマを放送してて、2作ともとても良い仕上がりだったし、

そのNHKが映像化に相応しいと選ぶなら、なおのこと気になるなと、ドラマ放送前に読んでみることにしました。

 

以下感想。ネタバレありです。 

 

 主人公の純君は自分がゲイであることを周囲には隠してる、いわゆる「クローゼット」な状態なんですが、

そのクローゼットな日常の、小さなストレスの描写が上手いなと。

 

 クラスメイトの男子が女子とヤッたと聞いて、それに興味があるフリをしたり、何気ない会話の中のホモフォビックな発言に、何も感じていないかのように振舞ったり、

母親のことは好きだけど、だからなるべく話したくないとか。

一つ一つは小さなことだけど、それがいつまでも続いて、終わる見通しのない。

  この辺りの描写が丁寧だから、正直読んでてちょっとしんどい。

クローゼットのしんどさは、トランスジェンダーとしても結構共感出来てしまう。

感情移入とまでは言わないけど、普段は突破されない、幾層もある心の防御壁の一枚目を突破されたような感じで、主人公に辛いことがあると読んでてげんなりしてしまいました。

 終盤に向かうにつれて青春小説感増してくるので、読みやすくなっていきますけどね。

 

 作中で笑えたシーンは、女の子とのセックスの練習としてパソコンで「女 エロ動画 無修正」と検索したところ。

直後に地の文でも気付いてるんだけど、ネットのエロ動画なんて、大抵が異性愛男性向けのものなんだから、検索ワードに「女」って入れる必要ないんですよね。

きっと純君は普段「女」ではなく、「男」「ゲイ」とかで検索してるんだろうなーと。

  ただ似た話だと、左利きの人が左利き向けの道具を探す時は「左利き用」と書かれてるものを探すけど、右利きの人は「右利き用」と書かれてるものを探さない。

何も書かれていないものは基本「右利き用」だから(ハサミとか例外もあるけど)

 少数派は自分の欲しいものを探す時にひと手間かかるというか、多数派は自分のことをいちいち説明したり、名乗る必要もない。

そういうことを表してるシーンでもあります。

 

 またタイトルだけでなく、作中にも幾度どなく「ホモ」という単語が出てきます。

私が勝手にそうとらえてるだけで間違ってるかもしれませんが、

 主人公がホモを使う時は、自分がゲイだと悟られない為に、あえて暴力的なこの言葉を選んでる。

それと自分がゲイであることを否定こそしてないものの、あまりポジティブには捉えてないので、どこか自嘲的なニュアンスも感じます。

 腐女子の三浦さんが使う時は、無邪気で無知であることを表してる。

 クラスメイトの小野君が言うのは、的確に相手を傷つけたい悪意を感じる。

 一つの単語で色んなニュアンスを感じさせる使われ方をしてると思います。

 

 だからタイトルは「ゲイ」や「同性愛」ではないんでしょうね。

でも炎上商法狙ったタイトルと思われても仕方なさすぎるタイトルだとも思うので、ドラマのタイトルが『腐女子、うっかりゲイに告る。』に変更されたのも、致し方ないと私は思います。

 「ホモ」という言葉をなくせば差別がなくなるわけではないけど、人を傷付けるリスクの高い言葉は、取り扱いが難しいし。

公共放送のドラマタイトルなんて、ものすごいたくさんの人の目耳に入るからなおのこと。

ただそれでも、タイトルを変えたところで本編中にこれでもかと「ホモ」という単語は出てくるわけだけど、大丈夫なんだろうか。

 

 あとはそーだなー、私自身は結婚したり子供ほしいとか全然思ったことない人間なんですが、

逆にそういったものを望む人の感覚、そういったものを望むLGBTの人の感覚ってのを少し垣間見れたかな。

 

NHKのドラマの公式HPはこちら。

www.nhk.or.jp

追記。カクヨムにて番外編(というより続編)が連載されています。本作を読んで面白いなって思った方は是非こちらも。

続・彼女が好きなものはホモであって僕ではない(浅原ナオト) - カクヨム