『白い紙/サラム』 シリン・ネザマフィ 感想
白い紙/サラム
著者:シリン・ネザマフィ
作品紹介
日本文学界を撃つ、イランからの新しい才能
こちらは『白い紙』と『サラム』の2作の中編小説を収録した本です。
以前、別の記事でイラン出身のサヘル・ローズさんのファンだという話をしたことがありますが、
そんな些細な理由でイランの小説って何かないかなと検索して見つけたのが本作です。
最初に驚いたのが、本著は翻訳小説ではなく、イラン人の著者が日本語で書いた小説なんですよね。
母語ではない言語で小説を書いたというのがともかく驚き。興味をそそるには十分過ぎる情報でした。
以下、感想。少しネタバレ。
白い紙
こちらはイラン・イラク戦争時のイランを舞台に、まだ学生の若い男女の淡い恋を描いた作品。
日本とは違う国・文化・宗教が舞台で、携帯も一般にまだ広く普及してない、ちょっと前の時代なので、
色んなことが違うなって思うところもあるんだけど、
それでも人の営みには、普遍的なものもあるよなって思わせます。
主人公は男女共学の学校に通っているんだけど、ここは男女が喋ることを禁止してるんですよね。
それ以外にも家族じゃない男女が交流するのは色々大変な環境で、それでも少しずつ交流を重ねていく2人の姿が微笑ましい。
たとえば毎日のお祈りもちゃんとしてなかった主人公が、彼とこっそり会うために、
これまでまともに行ってこなかったモスクに行くと言いだしたり。
モスクって神聖な場所というイメージがあるんだけど、それを逢引の場所みたくつかっていいのかなって(笑)。
淡くてウブな恋物語なんだけど、その背景にチラチラとそしてハッキリと描かれる戦争が、
2人の未来にどんな影響を与えるのか、そんな不安な気持ちと共に読み進める物語です。
サラム
こちらは日本を舞台に、外国人留学生の主人公が、通訳のバイト代目当てに、入国管理局に行く話。
舞台が日本だし、『白い紙』よりも現在に近い時期の話なので、ある意味では親しみやすい作品です。
でも主要な登場人物として、留学生として大学に通う主人公と、
文字の読み書きも出来ず、入管に収容されてる10代の少女レイラという2人がいるのですが、どちらとも自分と距離を感じてしまうんですよね。
日本で日本人として生まれ、平和に育ってきた私には、レイラの生い立ちはあまりにかけ離れてしまっているし、
かといって日本で暮らす外国人の主人公とも、私は別に近くはない。
日本が舞台なのに、私はどんな立ち位置でこの物語を読めばいいのか。
『白い紙』は遠い国のお話として消化出来てしまいましたが、こちらはそうはいかない。
これは私の国の物語なのに、私がまったく関与していない、関心を持とうとしてこなかった難民の問題や、入国管理局のあり方について描かれていて、気まずさを覚えさせます。
主人公が暗い入管を出たあとに見るのが、賑わう大きなショッピングモールという落差が印象に残りました。