週末花探し

東京都を中心に花を見に出かけた記録。土曜日か日曜日の夜に週一更新。たまに読書感想文。

『ペンギン鉄道 なくしもの係』名取佐和子 感想

ペンギン鉄道 なくしもの係

著者:名取佐和子

本の内容

電車での忘れ物を保管する遺失物保管所、通称・なくしもの係。そこにいるのはイケメン駅員となぜかペンギン。不思議なコンビに驚きつつも、訪れた人はなくしものとともに、自分の中に眠る忘れかけていた大事な気持ちを発見していく……。ペンギンの愛らしい様子に癒されながら、最後には前向きに生きる後押しをくれるハートウォーミング小説。

 タイトルが可愛いですね、表紙のイラストも可愛い。本を手に取る動機なんてそれで充分。

「猫と運命」「ファンファーレが聞こえる」「健やかなるときも、噓をつくときも」「スウィート メモリーズ」の全部で4章収録。

 

 以下感想。ネタバレは少しだけ。

 

 湯盥線の終着駅である海狭間駅は、電車の本数も少なく、近くにある工場の社員以外の利用者も少ない駅。そんな海狭間駅には、忘れ物を保管する遺失物管理所、通称なくしもの係があった。

そこには一見して鉄道会社の社員っぽくない、髪を赤く染めたアヒル口の男・守保が勤めていて、なぜかペンギンもいた。

 本作はそんなちょっと変ななくしもの係に訪れる人達の物語です。

各章ごと多少の繋がりはありますが、それぞれ独立した物語となっています。

 

 第一章「猫と運命」ではレンタカー会社に勤務する、笹生響子という女性が主人公。響子が電車の中でペンギンを見かけるシーンから始まります。

ペンギンに興味を持って本作を手に取った人間としては、最初のページからペンギンが出てきて掴みは良いですね。

 電車にペンギンが乗っているという状況は、突飛でありえないんですが、

そのあと響子は電車の中に、一年前に亡くなって未だにその死を受け止めきれない、飼い猫「フク」の遺骨の納められた骨壷を忘れるという、そうそうなくさないものを忘れ、

さらに同じ日に別の男性も電車の中に骨壷を忘れるという事態が発生。

その結果なくしもの係はどちらがどちらの骨壷か判断が出来ないので、2人に同じ日に引き取りに来てもらうことに……というお話です。

 2人の人間が骨壷を同じ日に忘れるという、あまりにあまりに非現実的な展開の前に、ペンギンが電車に乗ってることぐらい、あり得るんじゃないかという気がしてきます(笑)。

マイナスにマイナスを掛けたらプラスになるような感覚を味わいました。

 

 第二章「ファンファーレが聞こえる」は、ネットゲームの中から話がスタート。突然の大幅な舞台の変更にビックリ。ペンギンは?なくしもの係は?本当に掴みは良いですね。

 ひきこもりの高校生がネットゲーム内で出会った相手の依頼をこなすために、現実で外出するんですが、その最中に電車の中で「お守り」を忘れ物をしてしまって……というお話です。

高校生の頃にネットゲームを遊んでたので、私としては一番とっつきやすい話でした。

 

 第三章「健やかなるときも、噓をつくときも」の主人公、平千繪は他人の顔色をうかがって、その場しのぎの嘘をついてしまう癖がある。

例えば電車の中で乗り合わせた幼い子供に、電車に乗ってるペンギンを見たことがあるかと聞かれたら、「見たよ」と答えてしまったり。ペンギンが電車に乗ってるなんてありえるわけないのにね。

 この程度の嘘なら可愛いものなのですが、夫にその場しのぎにとんでもない嘘をついてしまって、大変なことになるお話です。

さすがにその嘘はダメだよと、その嘘はいつバレてしまうのかと、ハラハラズキズキする一番心臓に悪いお話でした。

 

 どの主人公達も何らかの悩みや行き詰まりや憤りを抱えていますが、あらすじにハートウォーミング小説とあるように、最後には前向きになって終わります。

ただ最近あまり元気のない私は、読んでいて主人公達の苦しさに引きずられる反面、前向きになった主人公達には、自分が置いてけぼりにされてしまったような気分になってしまい、あまりハートウォーミングにはなれませんでした。

 もう少し元気なときに読んだら印象も変わったかな……というのが第四章の序盤までの印象です。

 

 第四章「スウィート メモリーズ」の主人公は、改札機がICカードをうまく読み取らなかっただけで癇癪を起すくらい、すごく怒りっぽいおじさん。

いつも周りの人に気を遣わせてて、いるよねえこういう人。そしてイヤよねえこういう人。登場人物の中でも格段に心証が悪いです。

 そんなおじさんが興味本位でペンギンの後を追う話なんですが、読み進めるほどにピースがはまっていくというか、腑に落ちていくんですよ。内容を色々説明しちゃうと面白味が減りそうなので控えますが、話としてはこの第四章が一番面白いです。

 本作を手に取るなら途中で脱落せず、しっかり四章の最後まで読んだほうがいいです。決して難解な小説ではありませんので。

 

 尚、個人的に一番面白かった台詞は「水族館帰りに寿司を食える神経がわからん」です。

 

 ちなみに本作、続刊『ペンギン鉄道 なくしもの係 リターンズ』も出ています。近いうちに読もうと思います。読みました。

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