『白い果実』ジェフリー・フォード 感想
白い果実
著者:ジェフリー・フォード
- 作者: ジェフリーフォード,Jeffrey Ford,山尾悠子,金原瑞人,谷垣暁美
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2004/08/01
- メディア: 単行本
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内容紹介
悪夢のような理想形態都市を支配する独裁者の命令を受け、観相官クレイは盗まれた奇跡の白い果実を捜すため属領へと赴く。待ち受けるのは、青い鉱石、楽園への旅……世界幻想文学大賞受賞の話題作。
世界幻想文学大賞を受賞した全3部作の1作目です。
本著は15〜16歳の時に1度読んだのですが、その時すごく面白かった記憶が強く残っていたので読み返しました。残り2作は未読なので(当時はまだ出版されてなかった)、これを機に3作とも読みたいと思っています。
以下感想、途中からネタバレ(伏せ字)ありです。
言葉選びの美しさと幻想的な世界観
支配者であるマスター・ビロウ自らが作り上げ、主人公クレイも住む都市の名が「理想形態都市」と書いて「ウェルビルトシティ」とルビが振ってあるんですよ。
理想都市ではなく、あいだに形態を入れるセンス。「甘き薔薇の耳」というカクテルの名も独特。
クレイの仕事である観相官及び観相学も、占いなどではなく、人の顔や体つきから性格や人生までをも計る学問として描かれてる。
タイトルにもなっている、熟した状態のまま腐ることのない白い果実、それを抱いた状態で見つかった旅人と呼ばれる木乃伊。挙げだしたらキリがないのだけど、他にも様々な想像力を掻き立てる建物、動物、場所が出てきます。
訳者あとがきによれば、金原・谷垣両氏が翻訳したあと、作家の山尾氏がリライトするという手間のかかった翻訳をしてるので、言葉の美しさは原著者だけでなく、山尾氏によるところも多いのかなと想像します。
そういう意味では、山尾悠子さんの小説もいずれ読んでみたい。
本作だけでもとてもボリューミーで満足感がある作品で、これがあと2冊続くとなると期待も膨らむのですが、
2、3作目では山尾氏が翻訳から外れているんですよね。それが作風にどんな影響を与えてるのかが心配。
以下ネタバレです。
ともかく主人公クレイが、あらゆる人を見下して馬鹿にしてるような奴で、全然良いところがないんですよね。ミソジニーっぷりとかもひどい。
なので、ちょっやそっとひどい目にあったところで、可哀そうとか全然思えない。
ただ中盤、クレイも支配者ビロウに見捨てられ、硫黄採掘場で強制労働という殊更ひどい目にあい、さらに自身が死に追いやった人々の存在に触れ、これまでの行いを悔いることに。
その後赦免されるけど、これまで通りビロウの下にいることなんて出来ず、ビロウを出し抜こうと思うものの、クレイはそこで孤独を感じることに。
そら周りの人を見下して、誰のことも信頼してこなかったのだから。1人で支配者に立ち向かうのはあまりに心細い。
そしてクレイと並んで人でなしなビロウも、終盤に孤独さを垣間見せて、2人は似てるんだなと思わせつつ、
そのころには変わることが出来て、孤独から抜け出したクレイと、変わることのできなかったビロウという対比が出来てるのがまた。
あと旅人イケメン。
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