週末花探し

東京を中心に花を見に出かけた記録。金~日曜日のいずれかの夜に週一更新。たまに読書感想文。

『兄の名は、ジェシカ』ジョン・ボイン 感想

兄の名は、ジェシ

著者:ジョン・ボイン

訳者:原田勝

本の内容

4歳年上のジェイソンは、サムの自慢の兄。おだやかでやさしくて、忙しい両親にかわって、小さいときからサムの面倒をよくみてくれた。サッカー部のキャプテンで、学校ではみんなの人気者。だけどこのごろ、少し様子が変わったみたいだ。

ジェイソンはある日、自分はトランスジェンダーであり、男であることが耐えられない、と家族の前で告白する。大好きな兄の変化にサムはとまどい、閣僚の母親、その秘書を務める父親はうろたえる。おりしも現首相が退任し、サムの母親は有力な次期首相候補になるはずだったが、ジェイソンのことがマスコミに取り上げられるようになり……。

生物学的な性、社会的な性、そして本人が自覚する性の問題を、家族4人の立場から、わかりやすく、誠実に、時にコミカルに描く。

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本作を手に取った理由は、今年開催の『第67回青少年読書感想文全国コンクール』高等学校の部の課題図書に選ばれていたからです。

へー、こういう本も課題図書に選ばれるんだなーと興味を持って手に取りました。

 

以下感想、ネタバレありです。

 

ネタバレありというか『兄の名は、ジェシカ』という本の題名や、記事冒頭に引用してる出版社HP記載のあらすじに書いてあることで、物語の9割くらいは説明されています。

17歳の兄ジェイソン(ジェシカ)のカミングアウトをきっかけに起こる様々な出来事を、13歳の弟サムの視点から描いた物語です。

 

13歳のサムの一人称で語られるので、文体は子供っぽく、いかにも児童文学を読んでるって感じがしますが、序盤から両親が保守的な人であることが語られているので、これはジェイソンのカミングアウトがすんなりとは受け止められないぞっと予感をさせ、

実際本作は家族に受け入れられない辛さ、家族間の不和、それから学校での嫌がらせといった話が非常に多く、内容はなかなかしんどいです。

 

主人公はサムですが、物語はジェシカに寄り添ったような話であり、トランスジェンダーについて知りたいという人に向けた入門書といったところでしょうか。トランスジェンダーについて基本的なことを描いてると思います。

なのでトランスジェンダーの当事者が社会的・日常的に直面する、具体的な困難や課題について、掘り下げて描くという感じではないですね。まずは知っておきたい基本の話です。

 

だからトランスジェンダーについてある程度知ってる人が読んだら、ちょっと薄味かもしれません。

私自身はこの本を読んで、何か感銘を受けるとか、勉強になったとかは特にないです。この本のターゲット層ではないのね。

 

結末も何だかんだで丸くまとまりますが、子供向けの本ならこれでも良いかなと思いました。ビターなのは現実だけで十分。

 

 

むしろ私が興味を覚えるのが、この本が読書感想文の課題図書となっていることです。

 

子供の読書感想文といえば、思ったことを素直に書く子もいると思いますが、本人が自覚的かはともかく、大人に読まれることを前提にして、道徳的に正しい内容を書こうとする子はとても多いと思います。

そしてトランスジェンダーをとりまく環境はここ数年、短期間で目まぐるしく変わっています。

割かしトランスジェンダーについてポジティブなニュースも色々ある反面、ここ3年くらいはTwitterなどを見てると、えげつなく差別的な発言も多くみられるようになりました。ジェシカの両親なんて目じゃないくらいヒドいです。

そういう発言をしてる人の中には大学の先生だったフェミニストを自称してる人がいるわけです。

そんな世の中で果たして、トランスジェンダーを主題にした本作で、道徳的に正しい感想とは何なんだろうかと。

 

作中ではジェシカのカミングアウトを受け入れられない両親は批判的に描かれてますし、ジェシカの寝てる間に髪を無断で切ったサムの行動も間違ったこととして描かれます。それに対しジェシカの話を聞いて女性の格好をしてても咎めないローズおばさんは好意的に描かれています。

作品のメッセージとしては、誰が道徳的に正しい振舞いをしてるかは、一目瞭然。私もローズおばさんの方が好ましいと考えますし、サムの行動は問題だと考えます。

 

だけどこういう社会の差別問題って、自分で考えて答えを出してほしいと私は思うし、作品のメッセージそのままな両親ひどい、ローズおばさん素敵みたいな感想文って面白くなさそうだなって。

 

ただ私は学生時代、読書感想文をもっとも苦手としていて、こんなコンクールとは縁のない生活をしていましたが、コンクールに応募するくらい感想文が得意な子なら、面白い感想文が書けるのかもしれませんね。この混沌とした時代にだからこそ書けるようなものが。

 

 

あとは作中で面白かったポイントを3つ挙げると、

1つはジェシカが、学校で一番サッカーが上手くて、恋愛対象が女性だったりして、どちらかというと社会的に受け入れられにくそうなタイプのトランス女性なこと。

 

2つは一番最初にジェシカを彼女と呼んだのが、サッカー部の監督だったこと。

監督としてはサッカーが上手いかどうかが大事であって、それ以外のことはどうでもよいいのよね。逆に子供のことを大事に思ってる両親の方が受け入れられない対比が何とも。

 

3つは母親が閣僚なのも振り切った設定だけど、母親の妹で正反対の性格のローズおばさんも、チャールズ皇太子に卵投げたとか、車を売って馬を買ったなどと極端なキャラ付けなこと。ローズおばさん面白いです。