『キャロル』パトリシア・ハイスミス 感想
キャロル
著者:パトリシア・ハイスミス
訳者:柿沼瑛子
- 作者: パトリシアハイスミス,Patricia Highsmith,柿沼瑛子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/12/08
- メディア: 文庫
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内容紹介
クリスマス商戦のさ中、デパートのおもちゃ売り場でアルバイトをする十九歳の女性テレーズは、美しい人妻と出会う。彼女の名はキャロル。テレーズは恋に近い気持ちを胸に、キャロルに誘われ自動車旅行へ。二人を待つ運命を、彼女たちはまだ知らない……サスペンスの巨匠ハイスミスが匿名で出した幻の恋愛小説、待望の本邦初訳。
本作は2015年に公開された同名の映画(日本では2016年に公開)の原作小説です。当時映画館へ観に行って、とっても面白かったので、原作も読んでみることにしました。
以下感想。映画とちょっと比較しならがら、少しネタバレあります。
映画を観てから2年以上経つので、あまり詳しい内容は覚えていないのですが、
映画ではテレーズとキャロルの二人を、ややキャロル寄りの視点で描いてたと思うのですが、原作ではテレーズが主人公で一人称で描かれています。
その分テレーズの内面や取り巻く環境、テレーズに近い人物などが、映画より詳しく描かれてます。
特に恋人(?)のリチャードなんかは映画よりかなり描写が多いですね。
テレーズは舞台美術家になるという夢を持ちつつも、デパートのおもちゃ売り場でバイトしているという現実。
そんな将来への大きな不安を抱えてる中で、出会ったキャロルという魅力的な女性。
キャロルと出会い、恋を知ったテレーズの、もうキャロルのことしか考えられない、灰色の世界が薔薇色なったような高揚感。とても可愛らしいし読んでてキュンキュンしました。
でもプラスなことだけじゃなくて、負の感情も増幅していて、特に嫉妬の感情も増してるのもなかなか。幸せな感情が増えたけど、けっしてそれだけじゃない。
映画より描写が多いリチャードに関しては、そんなに好きじゃないのなら、さっさと振ってやれよテレーズって感じてしまいました。
でもテレーズとキャロルの関係が彼に知られると、すごいホモフォビックな一面が出てきて「うへー」ってなりましたが。
あと個人的にはミセス・ロビチェクが気になってしまいました。テレーズと同じデパートで働く年上の女性で、
過去には自分のドレスショップもやっていたけれど、今では持病に苦しみながらデパートで働き、陰鬱な印象のあまり掃除の行き届いていない1人暮らしのアパートメントに住んでいる。
テレーズの未来への不安が具現化したような人物ですが、読んでいて彼女も幸せになってほしいと、何故だか感情移入してしまいました。
だからテレーズがキャロルに促させるようにして、旅先から彼女へソーセージを贈った件はなんだか嬉しかったです。
読後感もとても良く面白い小説でしたが、ただいまいち映画ほどハマれなかったです。
理由はまず私が恋愛物自体に、関心が薄いこと。
その上で映画なら、受動的に椅子に座って見てるだけで話が進むけど、小説は自分から能動的に読むという作業をしなければ話が進まないこと。
そして出版当時である、1950年代初頭のアメリカという舞台を、私の想像力と人生経験では、イメージしにくかったことが理由だと思います。
映画なら映像があるから、こちらの足りない想像力も文章より補ってくれやすい。
ただ描かれるテレーズとキャロルの関係については、古臭さを感じさせなかったです。
アメリカで起こったストーンウォールの反乱が、1969年の出来事であると考えると、ハイスミスの先進性はすごいですね。
ついでに以前はてなハイクに書いた、映画の感想です。
おととい観てきた「同級生」と「キャロル」の感想でも。 3行に纏める能力は... - 仲野ひつじ - 仲野ひつじ - はてなハイク
はてなハイク終了に伴い、当時の書き込みを転載します。
おととい観てきた「同級生」と「キャロル」の感想でも。
3行に纏める能力はなかったのでidページに。ネタバレあるよ。
・同級生
ピュアッピュアでした。ピュアッピュア。高校生の男の子が2人いて、こんなことありえるんだろうか思うぐらい。
ただ所構わず何度もキスしてたり、そこが若いなあと。学校とか絶対誰かに見られてるって。その脇の甘さも含めて若いなあと。
全体的に力の抜けたというか、柔らかい描写の仕方が印象的で、
男子高校生ばかり集まってるのに、やたらなで肩に描いたり、
足を曲げたり走るときに、膝の関節で曲げるというより、軟体動物のように弧を描ようにしたりと。
優しい世界観を作ってました。
あと最近よくある、2部3部構成の作品みたいに、すごい途中感のある終わり方で、
下調べをほとんどせずに観たので、数か月後とかに続編があるんじゃないかと少し思ってしまったよ。
続きが知りたい人は原作を読めってことなのか。興行収入もよいみたいだし、待ってれば続きも映像化されそうな気もするが。
無料で見られるTVアニメとかは見るけど、BL系にはお金を出してないんだよねえ。
一線を越えるか否か、金払って劇場に来た時点で越えちゃった気もするけど。
・キャロル
忘れた手袋をきっかけに始まる恋。なんてはてなハイク。
主役の二人は、
ブロンドにチークや口紅がよく映えて、赤いネイルに赤い服、サングラスをかけてタバコを吸って、
自分で車を運転してて、主体的というか強い大人の女という印象だけど、脆さも垣間見えてるキャロル。
逆にテレーズは地味目で、受動的で対照的。年齢差もあってなんだか姉妹よう。
香水を付けあったり嗅ぎあったりとか、もう女の子女の子したイチャイチャが、ハー!コンチクショウメー!
貴方色に染まる(染める)みたいなヤダモー。
演技も目で訴えるようなものが多く、スクリーンに手を入れて介入したくなるようなもどかしさみたいな何か、役者すごい。
見てるこちらを煽るような音楽もまたもう!
あと本筋からずれるけど、
2人とも男性のパートナーがいて、あまり良い風には描かれてなかったけど(特にキャロルの夫)、
彼らの視点から見たらどうなるんだろうなあと。
キャロルの夫が結構ひどいのは確かだけど、
キャロルは果たして良き妻だったのかとも思うし、
最後は私たちはそんな醜くないみたいなことも言ってたし、きっと優しい一面もあったろうに、
上手くやっていく別の未来もありえたのだろうか、どうだろうかとも。
テレーズの彼も、君の為に転職もした!とか恩着せがましかったけど、
テレーズも彼が結婚したいって気持ちを知ってるのに、ハッキリしない態度みたいだし、彼からしたら今になって、相当自分勝手な女に見えただろうなあと。
最初の方で数分睡魔に襲われてたことも含め、いつか改めて見直したい作品です。
見落としてる要素が結構ありそう。
しかし、映画を観終わったあと、感想を言い合える人がいないことの寂しいことよ。
夜の公園で背中なでたり、香水嗅ぎあったりするような仲じゃなくて全然いいから、
性別とか何でもいいから、その時浮かんだどうでもいいような感情を言い合えるような人脈を作ってこなかった私の自業自得感。