『トランペット』ジャッキー・ケイ 感想
トランペット
著者:ジャッキー・ケイ
訳者:中村和恵
内容紹介
「家族にはそれぞれ他人にはいえない秘密があるもんさ」──人気のジャズ・トランペット奏者,ジョス・ムーディが死んだ.その遺体が露わにした驚愕の事実にマスコミは大騒ぎ.混乱する息子,追いこまれる妻を,ゴシップライターが追う.それぞれに辿り着いた〈本当〉の〈彼〉とは? 恋と愛とセックスと音楽,そして家族の物語.
以下感想、ネタバレは冒頭で明かされる程度のことだけ。
有名なトランペット奏者、ジョス・ムーディが亡くなったことから物語は始まります。
彼の死とともに一つの秘密、出生時は女の子だったことが世間に明らかに。
彼と秘密と共有し続けた妻。父の死とともに秘密を知った息子、彼の死亡診断書を書いた医師、彼の仕事仲間、それにゴシップ記者。
ジョスのことを思い出しながら、ジョスはどんな人だったのか、ジョスは誰だったのか、自分にとってジョスとはどんな存在だったのか。
ある夫婦の、ある親子の、ある記者の、それぞれの目線から彼のことが語られる群像劇です。
物語の中心にいながら、ジョス本人の目線で語られることはほとんどありません。周囲の人たちの回想から、彼の輪郭が浮き上がってきますが、
本当のところ、ジョスが何を考え、何を思っていたかは分かりません。
ジョス・ムーディの人生は、なかなか風変わりなのかも知れない。
けれどそんな彼も、彼の周囲の人たちも、どこにでもいるただの人間に過ぎず、特殊な人ではなく、特殊な物語でもありません。私や私の隣人たちの物語です。
もし私の身近な人が死んだら、私はどんなことを思い出すだろうか。もし私が死んだら、私を知る人は、どんな風に私を語るのだろうか。そんなことを読んでいて考えました。
当たり前だけど、死者は主役になれても語り部にはなれないのですね。
ここからは蛇足ですが、
最近、LGBTの人は生産性がないといった言葉が世間を賑わせていますが、
この物語はLGBTとその子供・家族の物語でもあります。そういった目線で読んでみてもよいのかもしれません。
あと訳者解説を読むと、著者のジャッキー・ケイのことが気になったのですが、邦訳された作品は本作含めて2作しかないみたいですね。残念。