『スヌスムムリクの恋人』野島伸司 感想
スヌスムムリクの恋人
著者:野島伸司
あらすじ
やっぱり世界はまんざら捨てたもんじゃない
清人、哲也、直紀こと僕、そして望(ノノ)の四人は、計画された同級生だ。
僕らの父親は同じ大学のラグビー部出身。暑苦しいほど仲がよく、ほぼ同時期に結婚し、住まいもテラスハウスを向かい合わせに購入した。そして子作りまで同じ時期にしてしまったのだ。思惑どおり四人の男の子が生まれたけれど、最後に生まれたノノだけは少し違っていた。女の子のような外見をしていたノノは、心も女の子だった。そしてそのノノが幼い頃から愛し続けていたのは…。
『高校教師』から15年、『聖者の行進』から10年。ドラマ界のヒットメーカーが、ずっと描きたかったピュアフル・ラブストーリー。
以下感想。ネタバレもあります。
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この本を読むきっかけ
この本を知ったのは、春に紀伊国屋書店・新宿本店がおこなっていた、LGBTを知る100冊!フェアにて紹介されていたからです。
そして私自身がトランスジェンダーであることや、このよく分からない不思議なタイトルに惹かれたことから、本作に興味がわきました。
ちなみにスヌスムムリクとは、ムーミンに出てくるスナフキンの本名とのこと。
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読みやすい文章と、個性を持ったキャラ
小説を読むのは久々だったのですが、難しい言葉も少なく、ラノベ感覚でスルスル読めます。
また八方美人でお調子者なところもある主人公のナオキを始め、
ナナコやかなみといった一癖ある彼女たちなど、登場人物に魅力があり楽しく読めました。
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登場人物の口調とドラマティックな展開
読んでて少し引っかかったのが、登場人物の話し方。
特に女性キャラに顕著なのですが、今時若い女の子がこんな女言葉を使うだろうかと。全体的に今時の人っぽくないなと。
ただ、ナナコが人気アーティストになったり、ナオキも最後には監督として国際的評価を得たりと、ドラマティックな展開の多い本作において、
リアリティとしてみればマイナスかも知れないけど、ドラマ的とみれば必ずしもマイナス要素でもないのかなとも。
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医療面について
医学的なことに詳しいわけではないのだけど、二つ気になった点があり、
一つはナナコのHIVについて。
感染してると発覚してから、数年後に再開するまでの間で、ちょっと病状の進行が早すぎる気が。
もう一つはノノの性同一性障害の治療について。
ノノは高校二年生で精神科に通い始め、高校三年生の時にタイで手術を受ける。ノノの誕生日は3月31日と明かされてるから、手術を受けたのは17歳の時になる。
また、手術前にはホルモン療法も始めてる。
精神科に通い始めて1年前後の17歳の未成年に、手術してくれる病院はあるのでしょうか(私が知らないだけで、あるのかも知れませんが)。
ホルモンに関しては医療機関に頼らず、勝手に始めちゃうとか出来るけど。
でも何よりおかしいのが、術後まもなく性行為をしてること。まだ患部で無理だよ。
リアリティよりドラマティックな展開を重視したのかもしれないけど、さすがに不自然さが強いです。
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性同一性障害の人物の描かれ方
本作に限らず、性同一性障害やトランスジェンダーの人物の描かれ方って、どうしてもワンパターンというか、紋切り型になってしまうものが多いんですよね。
テレビで椿姫彩菜さんやはるな愛さんなどのドキュメンタリーが作られると、視聴者に分かりやすいエピソードが選ばれ、分かりやすい解説も付いた結果、
生まれた年代も違うし、異なる人生を歩んでるはずなのに、何故か似たり寄ったりのドキュメンタリーが出来てしまうように。
ノノというキャラクターも、どこかで見聞きしたようなキャラになってしまってるなあと思います。
今から見れば9年前の作品なので、仕方ないかも知れませんが。
(そういう意味で言うと、放浪息子の二鳥君はあの時代ですごい先進的なキャラだった)
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2008年、刊行当時の私
本作の感想をまとめると、とても読みやすくエンターテインメントとしては面白かった。けど、人生に影響を与えるとか記憶に残る作品ということはない。
けどもし、刊行当時にすぐ読んでいたら、どうだっただろうかと。
本作は22歳くらい(?)のナオキの回想という体だけど、当時の私も19歳でほぼほぼ同世代なのよね。
あの頃はまだ、LGBT系のイベントや集まりに行くこともなく、具体的な性別移行も何もしてなかったし(髪を伸ばしてたくらい)、むしろゲイなのかなあという気持ちもまだあった頃だし。
今とはまた違った感想を懐いたかも知れない。
それでもノノに感情移入はしなかったと思うけれど。
それはノノというキャラの問題ではなく、私がいわゆるノノのような中核群と呼ばれる人達よりズレたところにいるだけなんですが。